乳がん検診について
当院では乳房の視触診は原則として行いません。視触診で気づくような異常をきたすような乳がんは、ほぼ100%の確率でマンモグラフィや乳房超音波検査で見つけることができるからです。すでに各自治体で実施されている乳がん検診から乳房の視触診が省かれています。逆にマンモグラフィ等の画像診断を伴わない“視触診だけの乳がん検診は無意味であり、過去の遺物”です。
乳がんを疑う異常があるかどうかをしらべるためにする乳腺の検査はマンモグラフィと乳房超音波検査です。当院ではいずれの検査も専門の資格を持った女性技師さん(臨床検査技師、診療放射線技師(日本乳がん検診精度管理中央機構A認定))が行います。自覚症状(しこり、痛み、はり、違和感、乳頭のただれ(びらん、痂皮化)、乳頭から変な液が出る(乳頭異常分泌)等)を検査時に技師さんにお伝えください。ちなみに当院のスタッフは院長以外全員女性ですので安心して受診してください。
乳がんを早期発見するためにはマンモグラフィと乳房超音波検査を定期的に受けていただくことが最も重要です。基本的には年に1回のマンモグラフィと乳房超音波検査をお受けになることをお勧めします。ただし、乳がんの家族歴がある、高濃度乳房である等、乳がんになる可能性の高い方(ハイリスクの方)は年に1回のマンモグラフィと半年ごとの乳房超音波検査をお勧めします。ただし、40歳未満の方はハイリスクでない限りマンモグラフィを毎年お受けになることは基本的にお勧めしません。
乳腺の検査は保険診療で受けられます。女性で何らかの自覚症状(しこり、痛み、はり、違和感、乳頭から変な液が出る(乳頭異常分泌)等)がない方はほぼいません。特に違和感や痛みは女性全員が感じることがあると思います。“まったく自覚症状がないので、自費で検査を受けます“とおっしゃる方は自費診療でお受けいただけますが、そうでない方は保険診療でお受けください。
ハイリスクに関して
欧米ではHigh-Risk Breast Clinicが増えています。これは乳がんになる可能性が高い(ハイリスク)かどうかを判定し、乳がん発症リスクに応じて検査を提案・実施しているクリニックです。
以下に当てはまる場合、ハイリスクと判断します。
- 高濃度乳房(マンモグラフィで乳腺が白く写る)
- 乳がんや卵巣がんの家族歴がある
- すでにHBOC(遺伝性乳癌卵巣がん症候群)等の遺伝子変異があると診断されている
- 過去に針生検等で異形乳管過形成、非浸潤性小葉癌等と診断されたことがある
乳がんの家族歴や年齢について
定期的な検査をお受けにならずに、大きなしこりになってから自覚して病院を受診し検査をした結果、リンパ節や肺、骨、肝臓等に転移した状態(病期4、StageIV、もう治ることはない状態)であることが分かった患者さんからお聞きした、定期的な検査をしていなかった理由をいくつかご紹介します。
“家族に乳がんのものは一人もいなかったので”
これは“乳がんの家族歴がなければ自分は乳がんにならない”と考えているということです。しかし、乳がんになった人々のうち乳がんの家族歴がある方は約15%です。すなわち、85%の方は乳がんの家族歴がないのに乳がんになっているということです。“家族に乳がんのものは一人もいなかったので”といって検査を受けずStageIVで治療(治すための治療にはならず、死亡するまでの時間を長くしたり、がんによる症状を柔らげる為の治療になります)が始まり、そして亡くなっていった方々はその誤った知識ゆえに貴重な命を失ったと言えます。
“70歳を過ぎたら乳がんなんかにならないって言われてるから”
この言葉もよく聞きました。特に西播地区の北部の方からよく聞かされました。“乳がんは若い人の病気で年寄りは関係ないと思ってた。こんな歳になって乳がんになってはずかしいわ“とおっしゃった方もいました。これも極めて危険な勘違いです。以下にお示しするのは日本における乳がん死亡率と年齢の関係を示したグラフです。昔と比べて中高年の乳がん死亡率が著名に増加しています(25年ごとに約2倍になっている)。70歳以上は乳がんにならない??? これは過去も現在もとんでもない勘違いです。
受診された高齢者の方にはいつもこのようにお願いしています。“寝たきりになるまでは必ず乳腺の検査を受け続けてください”と。増大する日本の医療費を抑制するためにも高齢者の方々が定期的に積極的に乳腺の検査を受け続け、早期発見・早期治療につなげていくことはとても大切なことです。早期に発見すればするほど、治療に必要な医療費は抑えることができます。”もう歳だから乳腺クリニックに行くなんて恥ずかしい”なんて思わないでください。年齢階級別乳がん死亡率推移(国立がん研究センター がんの統計2017より)
年齢階級別乳がん罹患率推移(1980年、2013年)は以下の通りです。
1980年と比べてすべての年齢で乳がんになる方が激増していることが分かります。
2次検診について
市の検診や人間ドック等の乳がん検診で要精密検査となった方を詳しく調べることを2次検診(再検査・精密検査)といいます。追加でマンモグラフィを撮影したり、乳房超音波検査で異常を指摘された部分を含めて詳しく調べていきます。場合によっては連携先の基幹病院に紹介し乳房造影MRIをお受けいただきます。
兵庫県ではこの2次検診をお受けにならない方が多いことが問題となっています。検診を受けて“要精密検査”になっていても“どうせ違うんでしょ”と思ったとか、“仕事が忙しくて行く暇がなかった”とか、“夫の介護でいけませんでした、夫が先日亡くなったのでやっと病院に行けました”とか。その結果、進行がんになってしまってから治療が始まり結局再発して亡くなった方が少なくありませんでした。確かに要精密検査となっていても実際に乳がんである可能性(マンモグラフィの陽性的中率、陽性反応的中度、positive predictive value)はたった3~6%です。だから2次検診を受けなくてもいいと考えてしまうとしたら非常に残念です。乳がんになっていないことを確認するためにも、そして今後の定期的な通院につなげるためにも、必ず2次検診を受けてください。乳がんで死なないために今、何をするべきか、何ができるのか。それは進行がんになってしまってからは出来ないことです。
近隣の街で言うと大阪、西宮、神戸、姫路などでは市の検診に頼ることなくご自分たちで定期的に乳腺クリニックに通う“自らの健康に関して自己管理のできる理性的な女性”がどんどん増えています。正しい知識を持てば持つほど、乳腺クリニックに定期的に通院することがどれだけ重要であるかが分かっていただけます。
知っておいてください
- マンモグラフィや乳房超音波検査では自己触診ではみつからないがんも見つかる。
- 近年、日本人女性の10人に1人が乳がんにかかると言われています。
- 乳がんは40~50代女性のがん死亡原因ナンバーワン。
- 自己触診では見つからないケースがたくさんある。
乳がんは早期発見で治癒します。
乳がんは早期に発見して治療すれば95%以上が治癒します。正しい知識を持ち、専門のクリニックで定期的にチェックしていくことが大切です。